巻機山のプロフィール2013年09月01日 12:41

 やっとの思いで山の9合目にあたるニセ巻機まで登ってくると、のびやかな雪田草原をそれに色彩のコントラストを与えるオオシラビソの雄大なパノラマ風景が突然目に入り、誰もが感嘆の声をあげます。


 新潟県と群馬県の県境、いわゆる上越国境を呼ばれる三国山脈上にどっしりと腰を据えた大きな山塊が、巻機山です。標高は1967m。上越国境で有名な谷川連峰とは1日の行程で結ぶことができ、親戚関係ということができます。ただ、縦走ルート以外の登山路は、新潟県南魚沼市塩沢等に集中しているため、巻機山は新潟越後の山というのが一般的なイメージです。

 「あれ?頂上はどこかな?」
 上り詰めたもっとも高い稜線は、のびやかな起伏がつづくのみではっきりとしたピークがありません。一応、稜線の一角に山頂標識が立てられていますが。実は、巻機山といってもひとつの山頂を指すものではありません。最高点を指す峰、牛ケ岳、割引岳、神字(カンジ)入りノ頭、前峰のニセ巻機山(前巻機山)など、いくつかのピークの総称として、その全体を巻機山と呼んでいます。


 豪雪に磨かれた巻機山の自然
 麓の清水の集落から望む巻機山は、険しく荒々しい山姿です。あの山影に心を包み込むような母なる風景が広がっていることは、なかなか想像できません。書籍やウェブなどで情報を得ていても、実際の実物の風景を目の当たりにしたときは、あまりのギャップの激しさに衝撃を受けることでしょう。
 巻機山は、豪雪地帯の真っただ中にあります。山頂付近の冬季の積雪は、おおよそ10mになると推定されるそうです。実際に春に登ってみると、2階建ての避難小屋はすっかり雪に埋まっており、まったく姿が見えません。そしてなだらかな谷間も雪が乗っており、平坦な地形(実際は雪ですが)に変わっています。山頂東面の浅い沢は、しばしば秋口まで残る大雪田もあります。


 雪に支配される巻機山の自然
 氷期に堆積岩が岩屑となったものが、凍結融解作用で徐々に移動して形成されたとおもわれるなだらかな斜面、雪の営力による左右非対称の山姿など、雪や寒さで巻機山の地形が形成されてきました。
 そして植生も大きな影響を受けています。その典型が雪田草原です。山頂一帯から東面にかけて積雪が深くなる場所は、融雪期間が長引き、過湿環境化、植生の生育期間の極端な短縮化の状態になります。このような環境では、亜高山クラスの山でも樹木類の侵入ができず、多雪環境に適応した草本植物だけの湿原が形成されます。これが雪田草原を呼ばれるものです。亜高山クラスの山で、残雪による山地斜面や尾根上が湿原化される現象は、巻機山を含む日本の多雪山地にしか見ることができず、このような雪田草原は世界的に見ても例の無い貴重な植生です。




 巻機山の池塘
 この池塘無しに巻機山は語れないほど、その魅力は大きいものです。のびやかな雪田草原の中に点在し、風景に輝きと潤いを与えてくれます。池塘とは、湿原の中にある小さな池のことを指します。巻機山には登山道から離れているものも含めて、50程の池塘があります。尾瀬ヶ原などのような窪地湿原の池塘に比べ、山地のものの成り立ちはまだ謎が多いそうです。


 巻機山とともに生きる清水
 巻機山の玄関口は、新潟県南魚沼市の清水です。おいしいことで名高い「魚沼産コシヒカリ」の穀倉地帯から上越国境の山に分け入ること十数キロにある小さな集落です。横を流れる登川には美しい渓畔林があり、ブナ、ミズナラの天然林が辺りを包み込んでいます。ここには民宿があり、素朴なもてなしと豊富な山菜料理が魅力です。巻機山の魅力に引きつけられて清水に来た人が、民宿の方もファンになってしまったという話も良く聞きます。

 参考文献:よみがえれ池塘よ草原よ 松本清著(山と渓谷社 2000/03)